うわばみのうわごと

酔っぱらいの言うことですから。

纏足とハイヒール

今日は休みを取り、一日キッチンの大掃除をした。掃除の合間につらつらネットを見ていたら、「纏足」についての記事が目に留まった。幼少時から纏足をさせられた女性が現在も存命しているという内容だ。

纏足という風習を、高校の現代文の授業で知った人は少なくないだろう。魯迅の小説『故郷』で、確か主人公の近所に住んでいた「豆腐屋のヤンおばさん」が、纏足なのに早足で歩いたという描写があったように記憶している。脚注には簡単な説明だけだったので、当時はそれほど強烈な印象は持たなかった。

 

それからずいぶん経って、中国宮廷衣装の展覧会を観に行く機会があり、その中に清朝西太后が纏った衣装もあった。写真で見る西太后は豪華な衣装にやや不釣り合いな、今の日本にもいそうな普通のおばちゃんぽい風貌で、しかし彼女が履いたというぽっくり状の靴を見て、これまた彼女の貫禄とは程遠い華奢な足だったことが想像され(おそらく20センチあるかないか)、これが纏足というものか…と思ったのだ。

 

ところが記事の中では、西太后が纏足を禁止したとある。確かに清王朝のルーツは騎馬民族で、男女問わず馬に乗るのが当たり前であり、そのため男女ともチュニックにパンツのスタイルである(もっともあのぽっくり靴で馬には乗れないだろう)。となると、纏足を施した足はさらに小さかったということになる。

 

纏足は女性から歩行能力を奪う拘束具のようなものであった。ただそれは中国だけの野蛮な風習ではなく、ヨーロッパのコルセットや日本の十二単など、形は違えど洋の東西を問わず存在した。コルセットは、肋骨が歪むことによって内臓が圧迫されるなど、健康に重大な影響を及ぼした。何もそこまでしなくとも、そもそも「運動」という概念が無かったのだから、貴族の女性は100メートルも歩いたら、息切れしてその場にへたり込んでしまうだろうに。

 

現代では、纏足もコルセットも過去の遺物となった。しかし日本の皇室の結婚式はいまだに十二単だし、大人の女ならハイヒールを履くべしという文化も根強く残っている。

 

私自身、ヨーロッパの某国の男性から「ハイヒールを履いてほしい」と言われたことがある。「カノジョでもないのに人の服装を指図すんなボケ」「そんなにハイヒールが好きならお前が履けよ」「足フェチの変態野郎」など、いくらでも言うべき言葉はあったが、少し冷静になり「私はアヒル足(幅広・甲低)なのでハイヒールを履いたら歩けないし、そもそも持っていない」と反論したが、まるで聞く耳持たずであった。彼は私が歩けるかどうかなどどうでもよかったのだ。

 

日本でも昨年、パンプス強要に対する抗議運動「#KuToo」が起こった。その元ネタとなった「#MeToo」運動で加害男性を擁護する発言をした著名人がいたが、そういう人々と、ハイヒールを強要する人々は重なるように思う。

 

いつだったか、スーパーモデルのナオミ・キャンベルがランウェイで転倒したことで有名なブランドの靴を、面白がって試着してみた。「わあこれは一歩も歩けない!でもこれを履いて歩ける人もいるんだね」と店員さんと盛り上がった。自分で身につけるものを自分で選ぶ自由があるからこそ、ファッションは楽しいのだ。